日本で「みどり」ということばが登場するのは平安時代になってからといわれていますが、そもそも色を示す言葉ではありませんでした。本来、瑞々(みずみず)しさ、新鮮で生き生きしている様や艶があって若々しい様を表す意味であったようです。それが転じて植物の新芽や枝を示すようになったといわれています。黒く、つやのある女性の美しい髪のことを「みどりの黒髪」と呼ぶのはここからきています。 漢字では、緑以外に、「碧」、「翠」も、みどりと読みます。

「碧」は、緑に近い青緑色を指しますが、もともとは光沢のある青緑色の石のことで、夏のよく晴れた日の、雲ひとつ無い深い青い空を「紺碧(こんぺき)の空」といいます。また「翠」は、純粋の粋と通じ「混じり気がない」という意味で、水辺に生息する美しい小鳥、翡翠(カワセミ)の雌の沢ある青緑色の羽のことです。

このように、日本では緑色と青色を、同じ意味で使うことが多いのです。青信号が代表的で、青リンゴ、青虫、青のり、青竹、青々とした芝生など、実際は緑色なのに青色と表現されます。これは奈良時代や平安時代の日本には、色を表す形容詞が「赤」「黒」「白」「青」の4色しかなく、緑は青に分類されていたため、ともいわれます。また「青二才」という言葉のように、果実の熟し具合からの転用で「幼い」「若い」「未熟である」という意味で一緒になったようで、生まれたばかりの赤ん坊のことを「嬰児(みどりご)」といいます。同じように、緑色と青色を明確に切り分けない言語は非常に多く、東アジアの漢字文化圏、東南アジア、インド、アフリカ、マヤ語など中南米の言語にも見られます。

 人間社会と「緑」の関わり合いの歴史の深さと広さには驚くばかりです。